『漆原 さくら』のおいしい本屋 漆原 さくら

「食」を描く画家の制作風景 〜 日本酒と肴、漫画 〜

 

まだ世にない日本酒の感動体験をつくる酒屋、「つけたろう酒店」からご依頼いただいている絵の制作風景を紹介します。

 

★この記事の投稿に合わせて、紹介した「特別酒#37 木陰の杉樽の魚」の一本売り販売を開始していただきました!!

この機会をお見逃しなく~!

https://tsuketaro.stores.jp/items/680b281ec0e0b80046dc4281

 

 

 

●つけたろう酒店について

 

「つけたろう酒店」は、熱燗DJつけたろうさん(以降、つけたろうさん)が各地の酒蔵さんと協力しながら未だかつてない新しい日本酒を生み出し、お酒の生まれたストーリーや店主の想いを載せた小冊子、ペアリングや熱燗のレシピ、絵葉書などを添えて隔月でお届けする会員限定のオンライン酒屋です。

https://tsuketaro.stores.jp/

 

 

実はつけたろうさんは母校である武蔵野美術大学の先輩であり、私が大学生の頃から制作活動を応援してくださっています。

 

出会った当時はすでに大学を卒業されて社会人になられていましたが、ご縁あって作品を見ていただく機会があり、それから展示会に足を運んでいただいたり…本当にあたたかく見守っていただいています。

当時から日本酒とおいしいものへの愛に溢れた方で、お料理教室や、料理と厳選したお酒をふるまうパーティーを開催するなど、パワフルでいつも人を惹きつける魅力に溢れていました。

 

 

つけたろうさんが私を知るきっかけとなった「金子半之助」さんの天丼の食レポ漫画(Rettyグルメニュース)https://retty.news/21670/

 

そしてつけたろうさんがこの「つけたろう酒店」を立ち上げるタイミングで、

 

「特別酒を飲み終わった後もお酒のことを思い出して楽しめるような絵葉書を作ってほしい。」

 

というご依頼をいただきました。

 

酒瓶ってかさばりますから、こだわって選んだお酒も飲み終わったらやむを得ず捨てなくてはならないのが、ちょっぴり寂しく感じるんですよね。(今、お酒好きのパートナーを持って尚更思います。)

ラベルをきれいに剥がしてファイリング…などそんな几帳面なことが続くわけでもなく…涙

 

 

でもこんな絵葉書があったら、いっしょに飲んだ人との会話や合わせた料理のこと、その時に心に想ったことを思い出せるのではないでしょうか。

 

 

つけたろう酒店様 特別酒のコース 過去にお届けした絵葉書
これまで「つけたろう酒店」さんのサブスクでお届けした絵葉書の一部
つけたろう酒店様 特別酒のコース 絵葉書
裏面はこのような漫画になっています

 

 

 

私自身お酒はあまり飲めるタイプではなく、日本酒についても全くの素人でしたが、

 

「日本酒初心者の方にも入りやすいものをつくりたいので、むしろ何も知らないからこそのピュアな感覚を表現してほしい。」

 

と言ってくださったことで、自分にもできるかもしれない!と思い、このお仕事をお引き受けする決意が固まりました。

 

2020年10月の第1号から今(2025年4月)に至るまで合計36本の特別酒の絵葉書を制作させていただきました。

※「つけたろう酒店」のサブスクは、毎月お届けしていた時期もありました

 

 

 

●制作風景~日本酒と肴の水彩画~

 

前置きが長くなってしまいましたが、そんな「つけたろう酒店」のサブスクに入っている絵葉書の制作風景を今回は紹介したいと思います。

 

絵葉書は、

オモテ面…特別酒の瓶とおつまみの水彩画

ウラ面…特別酒にまつわる漫画

というつくりになっています。

 

 

1、試飲する

 

↑お昼からお酒が飲める贅沢なお仕事です…

 

 

まず、つけたろうさんから送っていただいた特別酒のサンプルをじっくりと見たり、味わったりして、オモテ面の水彩画、ウラ面の漫画、それぞれどんなふうにしようかなぁとイメージを膨らませます。

 

 

 

 

 

2、ラフを制作する

 

 

試飲をして浮かんだ言葉や図を紙にかいていきます。

 

今回の「 木陰の杉樽の魚」は、まず酒瓶全体をパッと見た時、涼やかさや、春の新緑のイメージが湧いてきました。

また嘉美心酒造さんオリジナルのラベルに描かれている絵は、小さいころ見た絵本のような、どこか懐かしく、でも現代的にも感じられる魅力的なもので、心躍りました。

 

一口お酒を味わってみると、酒瓶を見た時の爽やかな印象を裏切らない味わい。

果物のような甘酸っぱさの中にほんのりと木の香りがあり、これは私の好きな「あの感じ」だ…となったのです。

 

たとえば、

木のまな板の上の新鮮なトマトやきゅうり。

おひつの中の炊き立てごはん。

竹ざるの上のお蕎麦などなど、

 

私の好きな「あの感じ」、

それは、日本文化の中にある、木とみずみずしさの組み合わせです。

 

味から情景が浮かぶというのも不思議な感覚ですが、

ここで、水彩画に描く器には木製のものを使いたいなぁ。その上に、みずみずしい春の旨み、甘味が詰まった野菜を使った料理…そうだ、天ぷらはどうだろう…とイメージがどんどん湧いてきました。

 

 

 

おつまみにどんなお料理を合わせるかについては、いつも悩みます。

 

基本的には、素直に「これを合わせたい!」と感じた料理を選ぶことを軸に

●絵として成り立つもの

●季節感のあるもの

を大切にしています。

 

例えば今回でいうと、

季節感を出すためにまずアスパラガスの天ぷらを選びました。

しかし酒瓶も緑色、アスパラガスも緑色となると、画面全体が緑色になるため、絵として何か差し色になるような色味が欲しい…となり、ラディッシュの天ぷらも加えました。

ラディッシュは春が旬でもありますし、濃いピンク色は緑色をきれいに見せてくれます。

今回は、ラディッシュの天ぷらが名脇役をしてくれているのではないでしょうか。

 

 

 

↑ラフを描き終えたところ

 

裏面の漫画については、すぐに案がまとまるとき、なかなか案がまとまらず悩んでしまうときがあります。

 

今回は、はじめに思い浮かんだ「木とみずみずしさの組み合わせ」を「日本の涼」と捉え、

昨今の蒸し暑い春の中で出会う「日本の涼」。

汗ばむほどの陽気の日向にいた自分が、まるで木陰を見つけて涼み、イキイキとしてくるような感覚をベースに漫画のラフを構築していきました。

 

 

ラフが出来上がったらつけたろうさんにラフの写真を送り、イメージを伝えます。

ここでつけたろうさんから修正をいただき、一部内容を変更することもあります。

 

 

 

3、モチーフの料理をつくる

 

↑ちょうどいいサイズのラディッシュを見つけました

 

 

今回のお仕事に関わらず、基本的にいつもモチーフを実際につくり、目の前に置いて描くようにしています。

 

ネットで調べればたくさんの画像が出てきますが、そういった画像を見て描くと表面的な形や色を抽出するだけの作業になってしまい、自分の場合、薄っぺらい絵になってしまうような気がするためです。

目の前にモチーフを置いて、質感や重さ、こちらからは見えない裏側や周りの空気を感じながら描くことで、絵に厚みが出る感覚があります。

 

料理して描いて、その後にしっかり舌で味わい…

五感で対象を感じるということは楽しいですし、描くときのモチベーションにもなりますね。

 

 

 

 

4、下書き

 

水彩紙に鉛筆で下書き(デッサン)をしていきます。

十分な自然光の中でモチーフを描きたいため、この仕事はできるだけ朝〜お昼過ぎくらいに行うようにします。

 

ここで気をつけていることは、とにかくモチーフを忠実に描くことです。

遠くから見たり、スキャンしてパソコンの画像編集ソフトで左右反転にして見たりすると、「これが正しい」と思って引いた線も、けっこう間違っていることに気づきます。

 

見慣れてしまうと間違いに気づけないため、お昼前まである程度描き、お昼休み後に新鮮な目で見て、間違いを直すなど工夫しています。

 

 

↑モチーフ全体を明るく見せることと、モチーフと背景との境界線をわかりやすくするため、白い板でモチーフの背面と影側を囲います。
↑描き始めて1時間くらい経ったところ

 

実際に印刷されるサイズよりも、原画は2~3倍ほど大きく描いています。

その方が細かな部分まで描写しやすいためです。

 

 

↑描き始めて2時間くらい経ったところ
↑描き始めて3~4時間経ったところ
↑彩色前の下書き(スキャン画像)

 

 

 

 

 

5、彩色

 

下書きが完成したら、一度練り消しゴムで余分な鉛筆の炭を取り、水彩絵の具で彩色していきます。

 

天ぷらの表面のカサッとした衣から鮮やかなみずみずしい色が透けて見える印象や、酒瓶の表面のツヤツヤとした質感などを大切に拾い、

「色を塗る」というよりは、「色で描く」イメージで進めます。

 

水彩絵の具は一度塗りつぶしてしまうと、まっさらな紙の白色に戻すことができません。

モノクロの世界に色が入っていくのはとても楽しいですが、気が抜けない作業でもあります。

 

 

 

↑全体にざっくりと色を置いているところ
↑全体に色味が入り、細かな描写に入る前の段階

 

 

写真を撮り損ねてしまったのですが、これくらい全体に色が入ったら、色鉛筆を使って細部を描写することもあります。

 

 

 

 

完成した水彩画(スキャン画像)

 

 

 

 

6.漫画を制作する

 

水彩画が完成し、裏面の漫画制作に入ります。

気が抜けない水彩画制作が終わってこの仕事に入ると、ちょっとホッとします。

 

ここでは「ライト板」というものを使います。

プラスチック板の中に電材が組み込まれており、電源に繋ぐと板全体が発光します。

この上に下書き、本番の用紙の順に重ねて置き、上から透けて見えるラフの線をペンでなぞっていくというわけです。

 

 

↑ライト板にラフと本紙を重ねて置き、ペン入れを進めているところ

 

 

「下書きの線をなぞる」と書きましたが、あくまでも「心を込めて絵にしていく」という気持ちを大切にしています。

 

特にたぬき(自分自身のキャラクター)は点々の目になみなみ眉毛、ときどき口。というシンプルな顔ですが、ちょっとした気持ちの入り加減でまったく感情の伝わり方が変わると感じています。

たぬきが思い切り笑っている表情を描くときは、自分自身も自然と笑い顔で描いてしまったりします…。笑

 

 

 

↑ペン入れが完成したところ。ペンは様々な種類を使い、素朴な表情を出すために鉛筆も使います

 

 

7、完成

 

水彩画と漫画が完成したら、それぞれスキャナーでパソコンの中にデータとして取り込み、つけたろうさんに最終確認をしてもらいます。

OKを頂いたら、絵葉書用の編集ソフトにイラストデータを配置して納品します。

 

私の仕事はここまでですが、その後、特別酒や冊子、ペアリングレシピとともに会員様のもとに大切にお届けされています!!!

 

 

 

●おわりに

 

いかがだったでしょうか。

 

絵描き(イラストレーター)として仕事を受け制作し、納品するまでをこのように書いてみたのは初めてでしたが、ひとつひとつもっと深く紹介したいなぁという部分もあり、今後も制作風景や制作中に考えていることを紹介していけたらと思いました。

 

ここはどうなっているの?これはどういうこと?と思うことがあれば、ぜひ教えていただければ幸いです。

今後の記事制作の題材にしてみようと思います。

 

 

★紹介しているつけたろう酒店さんのサブスクはこちら

https://tsuketaro.stores.jp/

 

 

★この記事の投稿に合わせて、紹介した「特別酒#37 木陰の杉樽の魚」の一本売り販売を開始していただきました!!

この機会をお見逃しなく~!

https://tsuketaro.stores.jp/items/680b281ec0e0b80046dc4281

 

 

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

 

 

 

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